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実在する名馬をモチーフとし、ビッグレースでの勝利を目指して育成するゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の勢いが止まらない。今年2月に配信されると、10月末までに1100万ダウンロードを突破。数々の著名人も熱中し、配信に先駆けて放映、出版されたアニメやコミックとの相乗効果も手伝って人気が沸騰している。その影響は引退馬の余生支援にも及ぶほど。競馬好きもアニメファンもとりこにしたヒット作の魅力を探った。
マー君も熱中
両耳をピンと立て、尻尾をなびかせながら、色とりどりのかわいらしい勝負服をまとってターフを駆け抜ける美少女たち。ゲーム開発事業などを手掛ける「サイゲームス」(東京都渋谷区)が展開する「ウマ娘」の一コマだ。
キャラクターとして登場するのは、武豊騎手に初めて日本ダービーの栄冠をもたらしたスペシャルウィーク、希代の快速馬サイレンススズカといった数々の名馬。平成30年4月にテレビアニメ1期、今年1月からは2期の放映が始まった。2月下旬にはスマートフォン用のゲームが配信され、音楽イベントなども展開している。
配信開始から約8カ月で1100万ダウンロードを突破したゲームは、キャラクターをさまざまなトレーニングで育成し、ダービーや有馬記念などのGⅠレース制覇を目指す。プロ野球・楽天の田中将大投手、タレントの中川翔子さんら多くの著名人がSNSにプレー動画を載せ、話題を集めている。
現実とIFを織り交ぜ
人気の理由はどこにあるのか。サイゲームスの担当者は「競馬にリスペクトを払い、競馬や競馬ゲームの魅力をどうやって多くの人に届けるかに苦労した」と語る。アニメ版では実際の競馬シーンを忠実に再現しつつ、「あの名馬がもしも〇〇だったら」と想像力をかき立てるIF(イフ)ストーリーを盛り込み、競馬ファンの心をがっちりつかんだ。
2期の主人公として登場するのはトウカイテイオー。丸1年のブランクをはねのけ、復帰レースの有馬記念を制した奇跡の復活劇をアニメでも描いた。3000メートル以上のGⅠを3勝した希代のステイヤー、メジロマックイーンとの対決では、テイオーの鞍上(あんじょう)だった岡部幸雄元騎手と、マックイーンの武豊騎手が繰り広げた〝舌戦〟をキャラクターが再現。芸の細かさも通好みといえる。
一方、1期の主要キャラであるサイレンススズカといえば、天皇賞・秋のレース中に故障を発生し、非業の死を遂げたことが思い出される。だが、アニメではスペシャルウィークらの支えを得て復活を果たし、米国遠征を目指す架空のストーリーが展開されている。
ゲームなどの調査・研究を行う「ファミ通モバイルゲーム白書2021」の編集長、上床(うわとこ)光信さんは「ウマ娘は競馬に興味がある人ほど『なるほど』と評価する。こだわりを持って作りこんだことが、バズる要因になったのでは」と分析する。
引退馬への寄付も急増
影響は意外なところにも波及している。NPO法人「引退馬協会」は平成29年から、かつて有馬記念で3年連続3着に食い込んだ名脇役、ナイスネイチャの誕生日に合わせ、引退した競走馬のための寄付をクラウドファンディング(CF)で募っている。例年は100万円程度だが、今年は約1万6千人から計約3600万円が集まった。
CFのメッセージ欄には「ウマ娘がきっかけで知った」「現役時代は知らないけど最近ファンになった」という声も。同協会の沼田恭子代表理事は「いつもとは桁が違う。引退馬が話題に上がること自体がうれしい。注目が一気に集まるきっかけになった」と喜ぶ。
ゲームに特化した調査を行うゲームエイジ総研によると、ユーザーからの評価が最も高いのは、ウマ娘の「育成要素」にあるという。
ウマ娘の育成でカギを握るのは、スピード▽スタミナ▽パワー▽根性▽賢さ-という5種類の能力だ。育成のバランスを間違えると、設定されたシナリオがクリアできなくなるほか、プレーヤー同士の対戦でも不利になる。一方で、運で実力をアップさせる仕掛けも随所にちりばめられており、ついついクセになるようだ。
同総研によると、ウマ娘のユーザーの4割を20代男性が占める。平均プレー時間は、日常の隙間で楽しむスマホゲームとしては異例の2時間以上にも及ぶという。同総研の八橋亜機さんは「ここまでの人気は想像していなかった。やりこみ要素が多いところは、スマホゲームらしからぬ魅力。完成度が高く、国民的ゲームになるのではないか」とさらなる期待を寄せた。
筆者:尾崎豪一(産経新聞)